無名のひと /服部 剛
 
傷口をいじれば 
いつまでたっても治らない 
そう知りながら 
この手は気づくと触れている 

もう忘れていたあの日の傷跡を 
いじり過ぎた浅黒い影が  
遠い過去の空白に 
うっすら浮かぶ 

誰も知らない古傷の 
瘡蓋(かさぶた)が剥がれ落ちるまで 
どれほどの月日が流れるだろう 

大人になった僕は 
いつのまにか 
透明な瘡蓋に 
全身を覆われたまま 

自分という人が 
誰であるかを忘れて 
今日も
顔の無い群集に紛れる 




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