干鱈/大覚アキラ
 
 鱈の干物、すなわち干鱈を、ベランダで黙々と割いている。
 春の日差しが少し眩しい、三月の最後の日曜日の午前中。どうやらおれもついに花粉症になってしまったらしく、さっきからくしゃみが止まらない。にもかかわらず、わざわざこの狭いベランダに出て干鱈を割いているのは、一言でいうならばイメージの問題だ。本来であれば、これは縁側でぼんやりとしながら行われるべき作業なのである。なのである、というほど決定的な条件ではないのだが、そこはやはりイメージの問題である。譲れないこだわりだ。
 そんなわけでおれは、この狭いベランダでエアコンの室外機に腰掛けながら、干鱈をちぎっては傍らのボウルに投げ込み続けているのであ
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