種無し葡萄/窪ワタル
化石になった受話器から
感傷が漂って来る
あの日から忍び寄るいつもの夏を
おぼろげに感じかけた矢先だというのに
僕は夏を失ったのだ
あの日からという夏を
あの日
やがて歴史になったあの日
いつもと変わりない暑い夏の朝で
けたたましく蝉が鳴いていたという日
悪は一瞬にして
無数の針でおっちゃんを貫き
そのまま時を止めた
おっちゃんは証拠になった
焼き付けられた悪の証拠
ケロイドを見せてくれましたね
決して癒えない死の影を負った背中を
まだ幼すぎた僕は
その真意も その地獄も その悪の
逃れようのない恐怖も
本当は何一つとして
汲み取っては
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