「柔らかくて低温の正方形」/菊尾
踵から広がっていく波紋
浴室の中では
気負うことがない
反響した声が体内へ戻った
再認識する
私が意識していたことを
煙突からの排煙
あんな風に空の中へ入り込めたら
ほんの僅かな間と感じていたのに
考えなくなるまで立ち尽くしていた
時間も排煙も忘れた
上っていく動きだけ憶えている
夢遊しているの
記憶する価値がないことは
すぐに身体から抜けていく
奇妙なバランスで支えている
時折、垂直に立てなくなる二本の足
あなたの肩
少し支えにしてもいい?
ふらついている身体、預けてもいい?
眠りたいから
どこか静かで暗い場所へ
連れて行って
人肌の水温の中でまどろむ
優しくするなら責任を覚悟して
私はあなたの中で暮らすから
鍵は開けておいて
頬に当たる水滴
天井からは小粒の雨が降る
あなたと私の室内
柔らかくて低温の正方形
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