鎌倉の武士 /服部 剛
アスファルトの上に
放置された猫の遺体を
夏の陽射しが腐らせる
数百年昔
同じ場所で戦があり
斬られた鎌倉武士の遺体は
掘られた土の穴に埋められた
やがて季節は巡り
名も無き武士の墓標の周りに
一輪の可憐な菊が咲いたという
二十一世紀
母なる大地を覆う
アスファルトの下に
数え切れない
いのちの種子は埋もれ
大地を踏んで立ち並ぶ
蜃気楼のビル群の間の道に
地上の幽霊達は吸い込まれ
時間(とき)の止まった空から
世を照らす日の丸の下
輪郭の透けた国会議事堂へ
路面の陽炎から立ち昇り
鎧を纏い歩いてゆく
鎌倉武士の幻影
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