盲目 (2004.7.6)/和泉 輪
 
 手が届きそうな低い空を
 逆光に輝く雲が流れる
 私は何か恐ろしかった
 歩く犬の眼が不吉だった


 堤防の道を愛想笑いで
 私は歩いていたと思う
 濁った川の水や霞む家々
 それらを呆然と見つめながら


(その時あの屋上の金網は
 誰かの苦しみを感じていて
 自らに科せられた役割を
 果たしていたに違いない)


 夏に満たない日の夕刻時
 羽化し始めた蝉の声を聴く
 生き急ぐもの達の美しさは
 鮮やかな盲目を孕んでいます
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