詩人のシノギ(訳詩集「於母影」の巻)/みつべえ
 
 「新体詩抄」(明治15年)の序文は日本伝統の和歌や俳句からはなれ、平俗な日常語による自由詩への道をひらく契機をはらんでいたが、その実作は七五調中心の文語定型詩であった。それも作品の完成度からいうと、詩的な生命力を欠いたものとして後世の評価は低い。その後も新体詩の試行錯誤はつづき、文語定型による日本語の訳詩を浪漫的な芸術の水準にまで高めたのが「於母影」である。
 というのが詩史の通説らしい。では、そのゲーテ、ゲーロック、シェイクスピア、バイロンなどの作品、全17篇のなかより森鴎外の手になるものとされている訳詩をひとつ。よく引用される定番の作品だから、ほかの詩にしようと思ったが、「ミルテの木はしづ
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