砂の味/結城 森士
 
二十一回目の春は、砂の味がした
進むべき道には視界を曇らせるほどの砂嵐が渦巻いていて
物心付いた頃から刻み残してきた足跡さえ消し去ってしまうようだった


 彼は喫茶店の中で苦いコーヒーを飲んでいた
 粉の砂糖をペロッと舐めると不思議と甘さを感じなかった
 少しだけ、砂の味がした 


二十一回目の春は、砂の匂いがした
道端に咲くはずだった花々は枯れてしまい
雪解けを彩る鮮やかな色彩は失われてしまったようだった


 彼は喫茶店を出る
 いつもの太陽が今日は一層眩しい
 信号の色が変わるのを待っている
 

長い間、カラフルな夢を見ていた
色とりどりの花は、密の味がした


 人々は忙しく横断歩道を行きかう
 彼はコンクリート詰めの街へと向かう
 花を探しているわけではない


カラフルな夢が覚めてしまうと
砂のお城が崩れるように
色や匂いを知覚する感性が
音も無く崩れ落ちていった


 彼は残された夢の残骸をペロッと舐める
 少しの蜜の味と、そしてやはり砂の味がした   
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