蜜柑の木 /服部 剛
老人ホームで
19年間すごした
Eさんが天に召された
すべての管を抜いて
白いベールを被る
安らかな寝顔の傍らで
両手を合わせた日
帰り道に寄ったマクドナルドで
僕が9年前に就職した頃
大きい窓辺で日向ぼっこしていた
車椅子のEさんを思い出す
右も左もわからぬあの日の僕が
初めて言葉を交わしたEさん
皆と同じように働けず
流れから取り残されていた時も
「ありがとう」と声をかけ
いつも栄養ドリンクを渡してくれた
周囲の先輩が皆大きく見えて
縮こまったまま休憩時間にひとり
外のベンチに腰かけていた
あの日
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