『狐憑き』/しめじ
妻が狐憑きにあって家を出た。かれこれ二ヶ月連絡がない。昨年の十一月に庭先に血まみれの狐が迷い込んできた。妻はこれを良く介抱したのだが甲斐無く死んでしまったのだ。そのときに憑かれたのであろう。
思えば妻は誰にでも優しい心を持っていた女だった。その分安請け合いをよくする女であった。傷ついた狐を見て彼女の心が揺れ動かぬはずがなかった。
「自然の摂理だ。そのままにしてお遣りなさい」
私はご託を並べて狐を家に入れないように妻を諭した。しかし、妻は頑なに首を縦に振らず血まみれの狐を抱いたまま私を見つめていた。涼しい風に鈴の音。晩夏にしまい忘れた風鈴の音に狐の耳がぴんと立った。
「
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