白い文字/服部 剛
いている
受話器越しに
温(ぬく)もっていた誰かの声は
過去へ葬(ほうむ)る
ミルクの渦巻くココアを飲みながら
昨日立ち寄った本屋の棚で
無造作な手に吸いついてきた文芸誌を開くと
物語の中
戦地に赴(おもむ)く若者は
恋人に宛てた手紙の便箋に
一行、自らの墓標を立てていた
遠い記憶のブラウン管
闇の画面に浮かび上がる
白い文字の一行
「 」
( こん )
空のティーカップをテーブルの上に置く
窓の外に ゆっくりと 月はふくらみ
ポケットに入れた携帯電話の画面に
君の笑った顔文字が滲(にじ)むのを
待っている
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