白い文字/服部 剛
 
もう何年も前のこと
ある夜のブラウン管の中
孤高のステージで
赤毛を振り乱して歌うジャニス(注:アメリカの歌手)

夭折した彼女の生涯を
ナレーターが語り終えると
闇の画面に
白い文字の一行が浮かび上がった

「 愛は、生きているうちに 」

5日間の峠を登り下った週末の夜
くたびれた鞄(かばん)を降ろす独り身のカフェ
ガラス窓の外に目をやると
遠くにはほの蒼(あお)い光でぽつんと立つ
電話ボックス

いつか
震える手で入れ損ねた100円玉が
狭い空間に落下した 音の響き

求めてはへし折れた想いの残骸が
粉々にこぼれたまま歩道に今も瞬いて
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