桜の咲く頃 ーさようなら、ヨシ子お婆ちゃんー /服部 剛
もしろかったわよ」
ぼくが肩を落とす日も
「あなたとってもステキだわよ」
若き日に、親に内緒で
戦時中の夜行列車に飛び乗って
兵隊さんの恋人がいる
松江まで揺られていったヨシ子さん
旦那さまが先立っても
月一回の受診で
二枚目の先生にうっとり
瞳をハートにしてたヨシ子さん
あなたはいつも桜色の服を着て
ふわりふわりと歩いてました
いつか家へ送った
夕陽の射す車のなかで
窓の外を見ながら
あなたが口ずさんでいた
賛美歌
あなたがいなくなって一週間
車の窓の外に見える
無数の桜のつぼみ等は
開きかけの唇から
うたっています
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