きせきの日 /服部 剛
わたしはすでに
わたしそのもの
自ら望み
生まれてきたわけでもなく
自ら選んだ
両親と国と時代でもなく
窓辺に置かれた鉢の
枝葉を広げた小木のように
只与えられた日射しを
ひろげた両腕から受けとりながら
( 息を吸うては吐いている )
ひとりの人間というきせきを思う
わたしはすでに
わたしそのもの
日々歩行するわたしは
土から根を抜いて
歩き出した木の姿に思われ
交差点を行き交う誰もが
幾人もの歩く木の姿に思われ
わたしはすでに
わたしそのもの
あぁいつのまに
忘れていた・・・
何の変哲も無い
この世はまことに
日向と影で織り成す
きせきの舞台
今日・世界の何処かで
空を割る、赤子の産声
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