ハチクロを読んで泣いた理由/イダヅカマコト
たが、注意する人がいなかった以上静かに寝ていたに違いなかった。左の首筋が常に痛んでいた。神経を追うと脳の左側に空白が生まれていた。加藤治郎に「あるヒトの脳死は待たれほしいまま刻まれてゆくつめたいトマト」という歌があり、この歌のイメージに沿うように目の高さから頭の断面を切ると、ちょうど目から反対側の頭蓋の左奥にあった。自己催眠をかけた後で1mmずつ意識の光を広げていって空白を照らそうと何度か試したが、それは3mm四方よりちいさくなることはなかった。
この球が広がったときに起こる最終的な結果は分かるような気はしたが、五体満足な身体に感じ取れる気配はなかった。
ハチクロで森田に連れ出されたリ
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