本当の林檎/A道化
 







眠りをすり抜けた昨日の喪失は
ぱらり、
白いお皿への林檎と一緒に
落下して
静止する





ぱらり、ぱら、ぱら、手の平から
白いお皿へと、剥いて刻めば生まれる
林檎・林檎の輪郭が
ぱらり、香る


見下ろせば
遠くで誰かが笑っている
遠い鳥ばかりが、チチチ、瞬く


わたしよ、林檎の、
正しい角度を、正しい平面を、ただ見下ろして黙れ
失った包丁を夢見る林檎のあらゆる輪郭が香って、
音の無い告白となって朝の白いお皿から飛び立つ
ああ、息を止めれば、目を閉じれば、うずくまれば、
遠くで誰かが笑っている、
どうしても、遠くで誰かが笑っている、
遠い鳥ばかりが、チチチチ、瞬く、





眠りをすり抜けた昨日の喪失が
ぱらり、ぱら、ぱら、林檎みたいに
朝食を通じて
ほら
明るい、正しい、本当になってしまう


2008.3.11.
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