雨水の日の夜のこと/右肩良久
 
 雨水の日の夜、眠りに落ちようとしていたら、部屋の床から正体のない桃色が霞のように立ち上ってきました。それがそのまま微細な粒子になって天井へ上り、逆さに降り積もってゆくのです。
 花のような匂いがしきりにしてくるのですが、何の花の匂いかはわからないし、匂いの出所もはっきりしません。それにしても天井はふわふわしたような、さらさらしたような、とらえどころのない桃色を降り積もらせて、段々こことは別の土地になるのです。
 しばらくすると、その土地の何カ所かがむずむずと動き始めました。見ていると数本の蓮が芽を出し茎を伸ばし、葉を広げ花を開かせるのです。そして萎れて種をこぼす、種から新しい芽が出てまた花を
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