バレンタインがやってくる /服部 剛
 

冬の 浜辺の 静けさ

僕はといえば
紅い魚を釣り上げようと
投げ入れた釣り糸を
水面の底でゆらゆらゆらし
知らないどこかで泳いでる
紅い魚の黒い瞳が笑っているのか
涙の滴(しずく)を海にとかしているのか
わからずじまい

( あぁ・・・、おそらく今年も
  2月14日は職場のおばちゃん達が
  熱のこもった義理チョコを、
  「できの悪い息子」にくれるのでしょう・・・ )

3号館の扉が開いてぱらぱらと
中年の夫婦等が出て来ては
ソファーに腰かけ
あったかい緑茶を手に
頬をほぐして語らっている

「 心に花を 」

やさしい物忘れなおばあちゃんが
青いじょうろで花に水をやるお話

立ち上がった僕は
3号館の黒い入口をくぐる
財布のポケットに
わたしそびれた数行の恋文をしたためたまま

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