鷺草のよう /天野茂典
ぼくには子供がいない
そのことは太陽のようなことなのだ
ぼくには子供がいない
そのことは月のようなことなのだ
ぼくは一個のDNAだ
ただそれだけだ
ぼくは宇宙から買われてきた花のようなものである
とうとい水をいただいて生きている
すばる光学赤外線天文台に映る遠いひとつの星なのだ
たんなる野辺山天文台に映る電磁波の分子なのだ
父は泣いた
酒を飲むたびにとうとい涙をおしげもなしに
子供たちの前で ながしつづけた
ぼくたちが小学生から 中学生にかけて
酒を飲んでは自分の過去を 呪って
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