言葉の振動/vallette
 
言葉が私の家のドアをノックするときは
必ず私はベッドの中で
毛布を何重にもして身構えている

私は怖いのだ  言葉が
私の[しん]に触れてしまうであろう  言葉が

コーヒーの入ったマグカップはずいぶん前から湯気を出すのをやめ
ノックの音も聞こえなくなった

私は布団から顔を出し
次に手を出し体を起こし

冷え切ったマグカップを両手に持つ
そして中のものを一気に飲み干す

ごくり、ごくりと音だけが意味もなく響いて
コーヒーの苦味が「私は一人なのだ」と脳やまぶたに訴えかける

「思い出に蓋をする」という言葉があるように
私は言葉が何かを開けると出てくるものだと
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