桜色の靴/服部 剛
新宿駅のホームで
母親が呼んだ駅員は
先っぽがクワ型の棒で
線路から何かをつまみあげた
猫の死体か何か?と
恐れおののき見ていたが
つまみあげたのは
桜色の靴だった
母親の足元にちょこんと座り
泣きべそをかいていた女の子は
駅員にわたされた靴のかかとに
はだしの右足を入れ
花の蕾を開いた顔をあげ
遠ざかる駅員の背中に
稲穂の姿の母親はおじぎする
「 駅員さん
三十過ぎた大人のぼくも
なにかを落としたまんまです・・・ 」
ホームの頭上から
仄かにそそぐ
春待ちの日を浴びながら
ポケットに手を入れて
ぼくは歩く
乗り換え電車のホームへと
吸いこむようにぼくを待つ
駅の階段へ
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