ノート「序か跋か」より、みっつ。/秋津一二三
 
。俺のことなはずなのに、俺が置いてけぼりになるのは、変だ」
 違うか。と、彼はあたしの目を覗き込む。
「違わないと思うよ。あたしのした恋は間違ってる節がふるからね」
 間違ってないよ。とあたしは繰り返す。
「恋に間違ってるもへったくれもあるかよ」
 彼は怒ったようにあらぬ方に視線を外した。

 救われてる。と、あたしは思う。彼に、ありがとうと感謝するべきなのか、ごめんと謝るべきなのか、あたしには分からない。ただ、救われてると思う。それだけで価値はきっとあったのだ。}

「夕立足跡」という題の作である。私は視る。程度を過ぎた理解は隔絶を報せる。海を知る私たちが、海を知るままではけっして海には成れないような隔絶ないし断絶がある。

×××

 読める者は隠された物を当たり前に読む。読めない者が隠された物を読んでしまわないように配慮されているのが私の表現であった。読めない者は厳然とそこにあっても気づくことはない。読んでしまう者は(誤解を招く表現を用いれば)不幸であった。知の有無の幸せに居所のない者であった。
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