窓を開けて風の音を聴いた/風音
 
僕は
いつも通り
彼女を家に送り届けた。

「ありがとう」
それから少しの沈黙があった。

僕はタバコでも吸いたいな、なんて
考えていた。

「ささやかな幸せな時間をありがとう。」
彼女の声がする。

驚いた僕は彼女を振り返った。
「今晩だけじゃなくて」
わざわざ言い直した。

「ささやかだけれど
幸せな時間だった。
ありがとう」

四年間。濃密な四年間。

「こんなこと冗談で言えないわ。」

「そんな」
「さよならは本気で言うものなの。
さよなら。幸せだった」

彼女は僕の頬にそっとキスして車を降りた。

僕は彼女が家に無事に入るのを待ってから
静かに車を出した。

幸せだった四年間。
たったそれだけのことじゃないか。

僕は路地に車を乗り入れ
窓を開けて風の音を聴いた。

たいしたことじゃない。
自分にそう言い聞かせながら。
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