「海辺」/菊尾
 
海鳥が羽ばたいて行く
波音が声も表情も攫ってしまう
ここを離れれば全て遠のいてしまいそうで
時計は腕から外して仕舞った
すこしでも時間を忘れられればいいと
そう思っていたから

歩いて歩いて、似た風景の中
限りなく続くような砂浜と
凍りついたように寡黙な空
浮かんだメロディーを口笛にして
水平線の先を見つめていた

いつ始まって
どこで終わりが訪れた?
記憶は流れずに留まり続けて
気が付けば反芻していて飽きもせずに何度も
この海が止まれば
知らなかったことにできる?
そんな事、ありもしないけど

足跡も持ち去られてしまった
静観していたあなたは何を思っていたの
奪われた心はまだ帰ってこないまま
行儀よくしていれば
ただ笑っていられれば
まだ、そこにいた?

潰えた永遠がここにはあるような気がして
あれから何度も訪れている
どこにも行けない
誰と一緒にいても笑えないから
浸かる足元
体温が離れていく

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