「寝息の行方」/菊尾
隣から静かな寝息が聞こえる
仰向けで寝ている僕の喉元を抜けて
天井付近で一度弧を描いてから
玄関のドアの隙間から外へ流れ出ていく
朝焼けの空へ振り返りもせずに宙を泳ぐ
無自覚な寝息の奏者
閉じた瞼の裏側で動く目
夢を見ているらしい
それはきっといい夢
表情が優しいからそう思う
退屈なんて感じない
どこへ行ってもその姿が傍にあるから
あくびをして涙を浮かべてると
「眠いの?」と君は笑う
その表情が今の全てです
カーキ色のコート
たまに下唇を触る癖
気にしている爪の形
時間が短い冬のこと
わざと鳴らせるブーツの踵
石
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