夫婦の食卓 /服部 剛
 
喫茶店で読む 
本を閉じて 
顔を上げると 

昨日の散歩中 
ふたり並んで覗く 
川の水面の鴨達に 
袋から餌を蒔いていた 
夫と車椅子の妻が
僕の前の席に座り 
テーブルに置かれた 
苺パフェを挟んで 
向き合っていた 

妻は歩けないので 
夕食はいつも  
この店に来るらしい 

運ばれた夕食を 
それぞれの箸で口にする 
ふたりの間の壁に貼られた 
ゆげの昇る鍋のポスター 

「あつあつすーぷであったまろ・・・」 

白髪交じりで直毛の夫は 
テーブルの真ん中に立つ 
苺パフェの赤い実をつまんで
口に入れる 

少し目尻を下げた妻は 
黒縁めがね越しに 
口数の少ない夫を 
ながめる 







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