創書日和「月」 臨月/北野つづみ
 
千両梨の
胸のつかえはすこし緩んで
いよいよ白線の前に立ちました
ようい、どんのピストルの音で
きっとぱあんと弾けるふうせん
いつかは開けなければいけないドアの前で
自由落下を待っている
にぎりしめたて
ひきつけたあご
産む、のではなくて
これは自然のなりゆき、で
熟した梨の実が落ちようとするとき
枝がその手を離すタイミングを
どのようにして計ったのか覚えていないように
いま、私はあるがままのやわらかな樹
優しく、人であることを忘れて
ただひたすらに耳をかたむける

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