ひかりの夜道 /服部 剛
 
仕事帰りの人波に紛れ 
手を繋いだ老夫婦が 
通りすぎていった 

耳に入れたイヤフォンから 
「ベル」という唄を聞くと思い出す
もう会うことも無い
いつかの君の猫なで声 

少し離れた空の下 
「ただいま」 
「おかえりなさい」 
受話器越しに交わした夜 

( 老夫婦のうしろ姿が
( 吸いこまれた
( 人波の向こうに
( いつまでも消えない  
( ふたりの繋いだ手 

路地裏に入ると 
まばらにうつむく街灯の下 
淡いひかりの夜道 
暗闇にのびる




戻る   Point(3)