「草触り」/菊尾
 
静かな夜
草を揺らす影と影
逃げるように追うように
どちらも何かを掴むため

耳を切る
指を切る
熱が集まる
息が下がらない
この鼓動は逃がさない

話せるのは今の内
朝になれば解けてしまうのだから
隠し事はこの場に埋めてしまえばいい
ふたりだって隠れた存在なのだから

忘れたいから
欲しいから
理由はそのつど変わるけど
どれもしっくりこないから
なんとなく誤魔化して

声と息と肌
ここから始まる細く弱い音
それの一つ一つが僕らだよ
たどたどしくて
脆く拙くて
誰かを互いの中に見ている僕らだよ

髪が舌に絡まる
痩せた肩が揺れる
首へ伸びる背骨の形
君の中へ入り込む
その背後には点滅する白
草触り
何度も口を付けて
粘膜に突き動かされていく

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