ひとりぼっちの椅子/林檎
雑踏の中を歩くのは苦手
自分だけが取り残され
ひとりぼっちの椅子になりそうで
ひとりぼっちの椅子になりたくなくて
そっと彼の手を掴んだ。
こぼれる笑顔とは裏腹に
伝わってくるのは無機質な手の感触
満員電車に一人乗り込み
くちなしの花の咲く季節だと気づき、途中下車
通り馴れた改札をくぐり、見慣れた街を歩く
パーキングの角を曲がり、時代に取り残された商店街
古びた旅館と高層マンションの狭間
そこにくちなしの花が咲き乱れる
むせ返るような匂いに感覚は麻痺し
蓋をした記憶が薄っすらと蘇る
思い出したよ・・・
私はもう、ひとりぼっちの椅子だったんだよね
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