樹木のひと /服部 剛
 
男の 
激しい火花の間に 
一本の樹木のように彼は立ち 
枝葉の腕を伸ばして 
ふたりの腰を抱きよせた 

「俺はお坊ちゃんなんかじゃねぇ!」 

「わたしは魂の願いを生きてるの!」 

「あんたらどっちもただしいよ・・ 
 ぼくらは同じ作家を愛する仲間じゃないか・・・」 

新宿駅地下の改札口で 
それぞれの方向に別れた
ふたりの背中を見送った後  
彼は一人きりの明日を
人ごみの向こうに見据える 

( ぼくは明日 
( 安月給を上げる為
( 初めて教習所にいく 
( でもほんとうにほしいのは
( 運転免許ではなく 

( 人間という資格 




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