樹木のひと /服部 剛
文学講座に参加した後はしごした
歌舞伎町の居酒屋「エポペ」で
酔っ払ったかれらは千鳥足のまま
無数のネオンの下で人間が渋滞する
新宿駅までの道を歩いていた
「エポペ」のカウンターで
よりかかって甘えた女の
「あなたはお坊ちゃんよ」
という言葉が尾を引いて
店を出てから人波の間に
切れた男は女を押し倒した
ふたりの背後から
口論の間に入ろうとしていた彼は
倒れた女に手をさしのべて
地面に打った腰にそっと手をあてた
子供の頃母に虐待され
現在休職中の女と
誰かに命を追われてもからんからんと
笑い飛ばすふりをする役者の男の
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)