樹木のひと /服部 剛
 
文学講座に参加した後はしごした 
歌舞伎町の居酒屋「エポペ」で 
酔っ払ったかれらは千鳥足のまま 
無数のネオンの下で人間が渋滞する 
新宿駅までの道を歩いていた 

「エポペ」のカウンターで
よりかかって甘えた女の
「あなたはお坊ちゃんよ」 
という言葉が尾を引いて 
店を出てから人波の間に 
切れた男は女を押し倒した 

ふたりの背後から 
口論の間に入ろうとしていた彼は 
倒れた女に手をさしのべて  
地面に打った腰にそっと手をあてた 

子供の頃母に虐待され 
現在休職中の女と 
誰かに命を追われてもからんからんと 
笑い飛ばすふりをする役者の男の
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