てるてるぼうず/亜樹
読みかけの洋書をばたりと閉じると、重い腰を起してのそのそと台所をのぞきました。
見れば、細君は台所の薄汚い板間にへたり込んで、ぼんやりと手にした縄を眺めてゐます。
――おい、何をしてるんだ。
そこで漸く細君は主人が声をかけてきたのに気づいたものか、のつそろと顔を向けました。
その視線はなにやら妙にぼやけてゐます。
――何をしているんだ。
――ああ、貴方、すみません。いえね、どうにも雨が降るものだから。
確かに雨は止みません。
ザアザアと降つています。
――ちょっと、首でも吊ろうかと思つて。
ザアザアと雨が降つておりました。
あがるころには、七色の綺麗な虹が見えるでせう。
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