雪を思って/たけ いたけ
雪の記憶は少ない。
桜の花びらより軽い雪が降るのを見てみたい。
電車に乗って、山々を抜けて、
おばあさんの一団がおしゃべりをするホームで乗り換えて、
長い乗車時間に退屈しながら、
トンネルを抜けて、
景色が車窓に迫ったり離れたりしながら、
先週の火傷の跡が残る右手を眺めたり、
向いの座席の上にある荷物置きに置かれた鞄を眺めたり、
しながら。
その内、山中の観光地へと着き、繁華街を抜けて、
国道へ逸れると、独りきりになり、
道路わきには手付かずの小さな雪景色が残っていて、
とても寒くて凍えるけれども、どうにも楽しくて、
道の脇に、稲荷さんを祭った小さなお堂があって、
祈ることもなく手を合わせて、
いい加減、暖かさが恋しくなって、
都会の狭苦しい安心を求めて帰りたくなって、
電車にのって、かじかんだ足先を溶かしながら、
遠い帰路に眠りこけて、
少しだけ温もりを覚える住処へ戻るだろう。
戻る 編 削 Point(1)