批評祭参加作品■回り道、つぶやく。 ??五十嵐倫子『空に咲く』について/岡部淳太郎
 
る。


ページをめくる
右の人差し指の腹で
本の左端の下までなぞって
ぺりっ
ページをめくる
この響きがいい
めくるめく季節を読み飛ばして
最後のページへ

(中略)

ふと 指先の感触を意識する
するり
とたんに何か 風が吹いたようにすり抜けてしまう
時間は
無限に流れていくけれど
生きているものたちには
限られている
時間

(「ページをめくる」部分)


 読書に集中しているその思考が「ふと 指先の感触を意識する」ことによって中断される。これまでの例で言えば、思考の中断は心の回り道をそのまま追うことになっていて、それが語り手の偽りの
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