映画館で私は/音阿弥花三郎
映画館で私は単なる映写幕に過ぎない。
私の皮膚の上をひかりとかげが交互に駆け巡り
さまざまな色彩が躰じゅうを舐めまわす。
しかしそのことによって陶酔することはない。
なぜならひかりの舌先は皮膚にのみ留まっているから私は
躰内にひかりとかげを引きずり込むことはできない。
私は面積によって生きるとされ私の
厚みに渦巻く熱さを知るものはいない。
また一つの物語が終わった。
私の皮膚は冷め ひからびたひかりが散漫に拡がる。
男や女が死者が生き返ったように我に返り
ささやく声が納骨堂のように低く拡がる。
このとき突きあげる衝動が私の躰を波打たせる。
私は積年の
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)