映画館で私は/音阿弥花三郎
 
映画館で私は単なる映写幕に過ぎない。 
私の皮膚の上をひかりとかげが交互に駆け巡り 
さまざまな色彩が躰じゅうを舐めまわす。 
しかしそのことによって陶酔することはない。 
なぜならひかりの舌先は皮膚にのみ留まっているから私は 
躰内にひかりとかげを引きずり込むことはできない。 
私は面積によって生きるとされ私の
厚みに渦巻く熱さを知るものはいない。 
また一つの物語が終わった。 
私の皮膚は冷め ひからびたひかりが散漫に拡がる。 
男や女が死者が生き返ったように我に返り
ささやく声が納骨堂のように低く拡がる。 
このとき突きあげる衝動が私の躰を波打たせる。 
私は積年の
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