「その場所へ」/菊尾
 
今に分かる事があるとして
それをどうしてこの瞬間に手に入れようとする
吸い込んだ酸素が抜けていくような
強引に引いた糸が切れていくような
そんな感覚が疎ましい

馳せてみる
薄明かりが点いているその場所に
燻り続けている事を
君は見抜いているから
まだ何重にも見えて定まらないこの視線の先へ
尋ねることは出来ないままで

呼び声はどちらからもで
波紋が声の後を追っていく
どうせ見えないならと目を瞑った
浮かぶ対岸で佇む懐かしい姿
足元に名前の知らない花が揺れていた


範囲内のものさえ着実に掴まずに
羨望だけで伸ばす腕は次第に力なく落ちた
飛ぶ鳥が進路を忘れたような
当てもない感覚の中
その声だけを手掛かりに
なんとなく歩いている気がするよ

何を想像する?
どんな姿が見えている?
まだ遠い対岸で
耳を澄ましながら
この足は歩き続けている

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