よしこちゃんのピアノ/縞田みやぎ
 
よしこちゃんは ピアノをもっていかなかった

彼女が五十一のとき のこっていたじいさまが死んで
よしこちゃんはもう 親のない子になった

その家は 彼女が大人になる頃に建って
夏と冬の休みには
住み慣れない家に ただいまをした
そこに帰ることも
そこを発つことも
よしこちゃんは ずうっと 旅をしていた

人のない家は穴があくので
整理をはじめたのは五十二のとき
子どもたちに食器を分けて
服と本と写真をくくり
手紙のたばをもちかえった
手を入れて 壁を貼って
誰ともなしに 貸しに出すのだ

紙鍵盤を弾いたんだ と
笑わないで話す
わたしの時分にはこれがなか
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