「そして私は瞼を開いた」/菊尾
小さな振幅
揺れている私
過去の夢を見ながら
たまに少しだけ腕を伸ばす
いつも語りかけてくる
その声は真新しいのに懐かしい
口が開かない私は身をよじる
喜びが体内を駆け巡る
いつかこの事を話そうと
私は記憶に封をする
覚えた関係も習った言葉も
今では数えられるほどになってしまった
失くなっていく現実だったものたち
最後にはあなたの事も忘れてしまうだろう
それでも再会すれば思い出すはず
確信はないが、なんとなく
そんな気がしている
温もりの海で
時間をかけて丁寧に形成されていく
握る手の中にはありったけの希望を詰め込む
宿った理由は素敵な笑顔の持ち主だったから
よく聞かせてくれていたあの音楽
さする度に伝わった優しい波長
次はこの耳と肌で感じられる
何を話そうか
どこへ出かけようか
多くの事を教えてもらおう
一つも無駄が無いように
私自身が教えられるようになるために
今日
私は産まれる
あなた達を幸せにするために
あなた達を愛するために
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