「not」/菊尾
 
何も出てこない
逆さから見た雲は裂けて、薄い
「カタカナでいいならまだ
 あと、少し話す」

ここには
置いていかないで


赤い点滅の名残りが瞼の裏に色を付けていく
翳懸るあたしは
透明になれないなんて事
知っていたよ
その喉の奥からならもっと素敵な事、
あなたなら言えるから
あたしは
浸して
乾かして
椅子から
ずっと眺めて


鳴る頭を横にして膝の上で聞いていた
誰にも聞かれたくない事を聞いていた
「それから」の、その先の、
終わらない話の最果てに身を置こうと
膝の繊維に触れながらそのままの姿勢で


そこには住めない
知る為には空白が必要
あたしは持っていない


煙草に酔って
愛の根が渇ききって
絶え間なく突きつけられる矛盾の中
足らないあたしは
忘れていく日々をあなたの傍で息をする
唯一
息ができる
あなたの傍で

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