月はすべての人に優しい/山崎 風雅
 
 窓から覗くのは人の気配の消えた通り
 街灯が暖かい
 自分の部屋にキャンドルを灯す
 それは神聖な時間
 それは私だけの時間
 誰からも邪魔されず
 深深と心の奥の細道に踏み出して行く

 あまりにも時代は早く加速していくので飛ばされそう
 しがみつくほどの暮しでもないけれど
 私は何故だかここから離れられずにいる

 愛しい人はもう眠りの洋を漂っているだろう
 距離なんて関係ない
 この気持ちに嘘はないのだから

 あまりにも遠回りし過ぎたかもしれない
 でも、旅立ちに遅過ぎることはないだろう
 真夜中のキャンドルは神秘である
 燃えあがる命
 この炎のように赤々と慄然と人生に立ち向かおう
 そう思う

 窓の向こうに月が輝いている
 月は笑っているようだ
 月は優しい
 すべての人に優しい




 
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