呼吸/佐々宝砂
マリンスノー
ふりつもる死骸
わたしというイキモノのうちそとで
生きたり死んだりしている生物たち
顕微鏡下の冬の水は活発な動きを示さない
微動だにしないとうめいな殻
わずかに繊毛をふるわせるうすい細胞
春がくるまで
最小限に抑えられる生命活動
星の砂
打ち寄せられる殻
わたしの思惑とはまるで無関係なところで
何かを燃やしたり何かを排泄したりしているわたしの細胞
わたしには死ぬ権利がない
わたしの細胞がわけもなくもえあがるので
わたしは呼吸をつづけなくてはならない
地球もまだ呼吸をつづけていて
今夜がクリスマスイブであろうとなかろうと
今夜もふりつもるマリンスノー
今夜も打ち寄せられる星の砂
とおい空
月光に照らされた雲が動いてゆく
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