望郷/明楽
 
寒さが身体に凍みわたる頃になりますと
不思議と故郷を思い出します
わたしがそこで過ごした十八回の冬は
どれも特別に寒くはありませんでしたが
むかし むかしは雪が深い
それが当たり前だった土地だそうで

寒さが望郷の念を立ち昇らせるのは
あそこで生き抜いてきた人々の血晶が
わたしの身体の中を脈々 脈々と流れ
強い熱を孕んだ音をどっくと どっくと と
響かせているからかもしれません

冷たい朝 両手に息を吹きかけると
一瞬 白くかすむてのひらに
誰かの手が 重なって見えます



2007.12.21
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