「密室」/菊尾
 
君の親指と僕の親指が身を寄せ合う
床をスレスレに蝶が飛ぶ
窓に張りつけた五本の指が解かれるまでは
外の世界はその手の中に

薄い壁に挟まれた僕らはヒソヒソ話す
水槽の中の金魚が誰かに呼ばれたように身を翻す
舌を通して交わされるのは滅菌された言葉と言葉
紅茶を飲むように僕らは話をしている


爪で掻く 塗り潰されたカレンダー 子守唄
花瓶に挿してある一輪 ベランダ越しの公園
手首を噛み合う 黒のパンプス 計算された稚拙
残り二錠 夕闇の中での粘膜 マッチの擦れる音


丁寧に一冊書き上げては保管されていく
二人の書庫に雨が足されれば
咽せ返る匂いが満たしてくれる
それさえも書き留めておこうと
筆を取ることを忘れない


甘い囁きは朝霧のように入り込んできて
僕と君は互いの中で息を潜ませる
波紋が広がる湖には他に誰も居ない
ボートは静かに先へ運んでくれる


互いに馴染んだ指先で
欠けた隙間を埋めていくこと
五感で二人は漂い始める
肌が熱を帯びていく

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