[カナリア]/東雲 李葉
 
 彼女はカナリア。歌う鳥。 
美しい声で森を奏で自由に空を舞うという。 
私は歌を忘れた詩人。 
情けないがもはや音を紡ぐ声も出ない。 
どこから聞こえる旋律に溜息の拍手を送る日々。 
愛する人がいるのだけれど胸に刺を刺す勇気も無く、 
白い薔薇の花弁を尖った口でむしってしまう。 
貴方のために歌いたいのに。貴方の詩を歌いたいのに。 
重みを持たない言葉達は擦れた喉を下りていく。 
両目が光を失うその前に、叫ぶように歌いたいのに。 
例え天使の声には聞こえなくても、 
身を裂くほどに切ない恋で白い花を染めてみたい。 
彼女はカナリア。歌う鳥。 
愛のために白薔薇を赤い
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)