父の両手 /服部 剛
 
混みあう電車のなかに 
何もわからぬ少年が 
瞳を閉じた 
父の両手につつまれている 

車窓の外は 
今日という日を照らす
太陽を背に 
一羽の鳶(とび)の黒影が 
翼を広げている 

ぼくが脇に抱えた鞄の 
蓋の隙間に覗く 
本の表紙は 
襤褸(ぼろ)布を身に纏(まと)い 
帰って来た放蕩息子 
父の懐(ふところ)に顔を埋(うず)めている

瞳を閉じた父は 
破れた服の肌蹴た肩に 
両手を置いて 
項垂(うなだ)れ頬に涙の伝う 
汚れた我が子を 
世界に一つの宝のように 
抱き寄せる 

大人になった今も 
ふいに感じる

ぼくをつつむ 
見えない誰かの両手を 




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