いつかの少年/服部 剛
日曜の床屋の順番待ちで
向かいに座る少年が
ウルトラマンの本を開いて
手強い怪獣の輪郭を指でなでる
少年の姿に重なり
うっすら姿をあらわす
30年前の幼いわたし
開いた本の舞台には
荒地で向き合う
ウルトラマンVSゼットン
両者の間に広がる
空色の空間に
吸いこまれるように
開いた本を覗きこむ
いつかの少年よ
大人になったわたしは今も
日々の手強い怪獣に
尻ごみしている
寂しい気持で
誰もいない家に帰ると
いつかの少年は
毎晩椅子に座っている
秒針の音(ね)が響く部屋で
床に届かぬ両足を
振り子にして
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