風のこころ /服部 剛
バス停に置かれた
切り株に腰かけ
川沿いの道の向こうにある
斎場を眺める
一月(ひとつき)前に
木魚の響くあの場所で
遺影の額から微笑した
老婆のからだはすでに溶け去り
空のなかへと吸いこまれた
風のこころは何処に漂う
今日も昇る太陽の
黄金(こがね)の滲む鱗(うろこ)雲に
少し虚ろな瞳をあげる
音も無く空に響きわたる
あの日の老婆の笑い声
すいた道路の向こうから
見えない法則のように
こちらに走って来るバス
( 今日もいってきます・・・ )
密かな言葉を胸につぶやき
切り株から
少し重い腰をあげる
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