人間の味 /服部 剛
手にしたペットボトルから
色水みたいなジュースを飲み
騙（だま）されたような気がした日
長い間畑仕事をしていた
老人ホームの婆（ばあ）やは言った
「昔は農薬なんか使わなかったが
今の野菜はほんとうの味がしないよ」
日本各地のいろんな場所で
今日も数えきれない人々が
色水のジュースを飲んでいる
夜遅いひとりの食卓で
農薬混じりの野菜を食べる
おふくろの味も忘れた
日本人の舌は色褪せ
こころまでもうすれゆく
自分という人の
（ほんとうの味）を
忘れやしないか
今さら少し
心配しながら
ゴミ箱に
空（から）のペットボトルを捨てる
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