「キキ」/菊尾
 
凍りついた心室
寝息は揃って
誰にも立ち入れない
ふたりだけの国
現実が終わった

瞬間の遅さだけを集める
丁寧に蓄積させていく
折り重なる
落下する
投げる
瞼を開ける
動作がスローになった時にだけ
価値が見出せる

ヒダリキキから
ミギテへ
そこは違う場所
似て異なる
見失う
ノイズの網膜
見失う
青紫が雲の上に広がっていて
誰の口元も滲んだ水彩画みたいに
ぼやけて曖昧になっていた

空白が破れる
インクが落ちてゆっくりと染めあげていく
悲しいね
けれど笑っているんだね
冷たい空気の中で
輝いた一瞬の中で
小さな屋上
溶かし始める温もりの中で

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